一般演題[ 急性血液浄化・アフェレシス ]

O-086
血液透析を施行したバルプロ酸中毒の1例

杉本 壮弘、鶴本 雅信、石田 直己、武市 和真、大田 哲也、大本 かおり、前田 泰弘
徳島県立中央病院 臨床工学科

【はじめに】
 バルプロ酸ナトリウム(以下,VPA)は分子量144Daで,抗てんかん薬として使用頻度の高い薬剤である.消化管から吸収され数時間で最高血中濃度に達する. 過量服用による中毒症状として,高アンモニア血症を伴う意識障害を引き起こすことが知られている. 肝臓で代謝され,半減期は9.5時間である.蛋白結合率が高い薬剤であるため,血液透析(以下,HD)で除去できる可能性は低いとされている.しかし,血中濃度が高値になる場合は,遊離VPAの割合が増すため,HDが有効であると報告がある.今回,バルプロ酸中毒で発症した意識障害に対して,遊離VPA除去と意識障害改善を目的に,HDを施行した症例を報告する.

【症例】
 症例は30歳代の女性で,身長160cm,体重65kgであった.現病歴としてうつ病と気分障害がある.以前にも過量服用で搬送歴があり,今回も突発的に処方薬を過量服用した.服用後に連絡を受けた知人が救急要請し,搬送された.確認された服用薬剤の中で多かったのが,デパケン200mgを166錠(510mg/kg)とルネスタ3mgを50錠であった.緊急搬送時は会話可能であったが,意識はやや混濁していた.血中VPA濃度は16μg/dLでアンモニア濃度は45μg/dLであった.胃洗浄と活性炭の投与が行われ,救急病棟に経過観察入院された.入院後,VPA血中濃度のモニタリングが開始された.モニタリングは3時間ごとの採血で行った.VPA血中濃度は経時的に上昇し,救急搬送15時間後に有効治療濃度を大幅に超える643μg/dLまで上昇した.意識状態は傾眠となり呼び掛けに反応しなくなった.その時のアンモニア濃度は83μg/dLであった. HD条件はダイアライザーの膜面積が1.3㎡,QB120mL/min,QD500mL/minで治療時間は6時間であった.HD後のVPA血中濃度は92μg/dLまで低下を認め,意識状態は徐々に改善した.以後,VPA血中濃度は上昇することなく経過し,第4病日に軽快退院された.

【考察】
 VPA中毒に対するHDの効果は確立されてはいないが,大量服用症例で血中濃度の低下に有用であるとの報告がある.本症例でも,1度のHDでVPA血中濃度の低下と意識障害の改善を認めたため,HDは有効であったと考える.現在VPAは徐放製剤が主に処方されており,血中濃度が長時間持続することが考えられる.そのため,HD開始のタイミングや治療時間については改めて検討が必要であると考える.

CLOSE
© 2018 第8回中四国臨床工学会. All Rights Reserved.
Produced by オンライン演題登録システム・査読システム|演題登録.com|