一般演題[ 人工心肺・補助循環 ]
O-060
ドクターヘリ搬送で救命した鈍的心損傷の1例
鶴本 雅信、石田 直己、杉本 壮弘、武市 和真、大田 哲也、大本 かおり、前田 泰弘
徳島県立中央病院 臨床工学科
【はじめに】
当院でのドクターヘリによる患者搬送の約3割を交通外傷がしめる.鈍的胸部外傷の原因の多くも交通外傷である.その中で鈍的心損傷は20%をしめる.鈍的心損傷のうち,心破裂はもっとも重症かつ死亡率が高いと報告されている.心破裂による重症の心タンポナーデ型では,短時間に心停止に移行することがあり,迅速な処置が患者の生命を左右する.今回,僻地で発生した心破裂症例を,ドクターヘリで搬送して,手術救命した1例を報告する.
【症例】
症例は60歳代の女性で身長160cm,体重60kgであった.自家用車を運転中に大型トラックと正面追突し受傷された.救急隊接触時,JCS200でガムによる気道閉塞を認めた.近医へ救急車で搬送され,CT検査で心タンポナーデ,肋骨骨折を認めた.血圧は40台まで低下し,心嚢ドレナージが施行された.鈍的心損傷による心破裂が疑われ,緊急手術の目的にドクターヘリが要請された.心嚢ドレナージ後に血圧は80台まで回復し,挿管下にドクターヘリで当院へ搬送された.ドクターヘリ搬送時間は21分で,ERを経由して12分後に手術室へ搬入された.経食道心エコーで心臓弁損傷や心内シャントは認めなかった.手術は正中開胸で心膜切開後に心嚢内に多量の凝血塊を認めた.破裂部は左心耳にあり,2cmの裂孔を認めた.出血が多く視野確保が困難であったため,心停止下に修復術が施行された.手術時間は190分で,体外循環時間は73分,心停止時間は24分であった.術後5日目に人工呼吸器より離脱し,その後症状は改善し,術後19日目に他院へリハビリ目的で転院された.
【考察】
鈍的心損傷のうち心破裂は,発見が困難であり,頭部外傷や腹腔内臓器損傷などを合併することが多く,予後不良とされている.本症例は重篤な心タンポナーデであったが,初期診療から搬送中の処置,搬送時間が救命につながったと考える.陸路搬送では,1時間程度を要する距離であったが,ドクターヘリでは21分であった.また,運行可能な日中の発症であったことが救命に繋がったと考えられる.
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