一般演題[ 人工心肺・補助循環 ]

O-059
急性循環不全を呈した僧帽弁閉鎖不全を合併した左房粘液腫の1例

鶴本 雅信、石田 直己、杉本 壮弘、武市 和真、大田 哲也、大本 かおり、前田 泰弘
徳島県立中央病院 臨床工学科

【はじめに】
 左房粘液腫は成人の心臓腫瘍のなかで最も発症頻度の高い良性腫瘍である.拡大した左房粘液腫が僧帽弁へ嵌頓することで,僧帽弁狭窄症に似た心不全症状が起こるとされている.心房中隔由来の粘液腫で,僧帽弁逆流を合併することは稀で報告例もほとんど見当たらない.そこで今回,重度の僧帽弁閉鎖不全に心房中隔に茎を持つ,巨大な左房粘液腫を合併した急性循環不全の症例を報告する.

【症例】
 症例は50歳代の女性で,身長157cm,体重52kgであった.現病歴は自閉症と精神発達遅滞(意思疎通は不良)があり施設入所中で,数日前から歩行困難となった.腹部にガスが貯留したため絶食中であった.今回,排便中に顔面蒼白となり腹痛を訴え当院へ救急搬送された.経胸壁心臓エコーにて高度の僧帽弁逆流,三尖弁逆流と左房内に左房腔の大部分を占めるmass(70×43mm)を認めた.massは拡張期に左房から左室に嵌頓しており,僧帽弁流入速度は314cm/sと著明に加速し,僧房弁狭窄様の病態をきたしていた.肺野にうっ血所見があり,非侵襲的陽圧換気療法が開始された.弁膜症によるうっ血性心不全と左房粘液腫の疑いで入院となり,術前検査後に手術が予定された.入院直後に収縮期血圧が80台に低下し,カテコールアミンが開始された.手術室入室時には収縮期血圧が50台に低下し,ショック状態であった.手術は正中開胸で,腫瘍切除に,僧房弁置換術,三尖弁形成術を施行した.左房の腫瘍は7×5cmで,心房中隔に茎を持つゼラチン様の粘液腫であった.心房中隔と一塊に粘液腫は切除され,欠損部は心膜パッチで閉鎖された.手術時間は320分,体外循環時間220分,心停止時間157分であった.術後2日目に人工呼吸器より離脱し,5日目に精神科病棟に転棟した.心不全症状は改善し,術後19日目に施設へ退院された.

【考察】
 心臓腫瘍の半数は粘液腫であり,75%は左房内に発生するとされている.症状は粘液腫による心腔内狭窄による心不全や,腫瘍が末梢に飛散する塞栓症などがある.本症例でも粘液腫が左室腔内に嵌頓することによる僧房弁狭窄様症状を認めていた.さらに高度の僧房弁逆流により急速に心不全が進行したと考える.

CLOSE
© 2018 第8回中四国臨床工学会. All Rights Reserved.
Produced by オンライン演題登録システム・査読システム|演題登録.com|