大会長招請講演

臨床工学技士のもうひとつの仕事「患者のためのものづくり」

百瀬 直樹
自治医科大学附属さいたま医療センター 臨床工学部

 臨床工学技士は医療機器の保守や操作を行うのを生業とします.でも,医療において臨床工学技士に求められているのはそれだけでしょうか?使うだけなら工学的知識は要らないのではないでしょう.なのに何故養成校で工学を学ばされるのでしょう?
 筆者は1982年に東京の秋葉原にある三井記念病院MEサービス部で医療界に入りましたが,そこは技士が医療機器のチェッカーなどを自作している環境でした.当時は医療機器自体が少なく,あっても不完全で,特に安全装置は置き去りでした.例えば血液透析では徐水量の制御もできず,除水し過ぎてしまうこともよくありました.そこで私は,薬品ボトルとスイッチを組み合わせて,目標とする除水が完了すると鳴るブザーを作りました.これが最初の医療に貢献できたものづくりでした.この環境で現場でのものづくりを仕込まれ,転勤先の現職場で最初に手掛けたのが,人工心肺の準備計算や術中記録と監視・レポート作成を行う人工心肺支援システムでした.その後,人工心肺の貯血レベルの自動制御システムなども作り,今も臨床で使っています.最近は車いすなどの福祉機器も手掛けています.
 いろいろと考案しましたが,臨床現場でいい評価を受けても,医療機器メーカーが商品として売り出すには至らないものがほとんどです.医療現場からの要望があっても,メーカーは採算が取れ儲かる製品でなければ作ることはできないのです.つまり,医療者に必要な機械や材料が思い浮かぶのに,それが製品化され広く現場に提供されないという大きなギャップが存在するのです.医療者は我慢するか,自らこのギャップを埋めるしかないのです.筆者は,工学的知識と,臨床工学技士免許により医療でのものづくりを許される臨床工学技士こそ,このギャップを埋められると思っています.もちろん他の医療職種・メーカー・研究者の力も借りる必要もあるでしょう.
 医療現場のものづくりで注意すべきは,最終的な目標はあくまで「患者のため」でなければ,医師を含めた医療スタッフに理解され,それらを使うことを了承されません.個人的なこだわりや自己満足のためであれば,趣味と呼ばれるレベルになってしまいます. 皆さんは医療現場で「ここを改良したら良くなるのになあ」と思うことがありませんか?そう思える人はものづくりの素質があるのです.講演では皆さんと,患者のためのものづくりについて考えてみましょう.

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